2年の頃か3年の時だったか今一記憶にないのですが、ここで話をしておきましょう。 高齢という年端は、ロンの身にも確実にやってきました。この頃は専業主婦だった母が散歩をさせていたのですが、若い頃のような判断が下せないくらいロンはボケがはじまってしまいました。
チャリ通学だった私とタケダ君はよく私の自宅に寄って色々な話をしたものです。もっともまだこの頃(2年の前半)は私自身が彼に心を許していない状態でしたが。2年の夏休みですかね、彼を受け入れるようになったことに明確なきっかけなどは無かったのですが、「1年の秋頃から文通してる人がいるんだ」と「嶋」さんの話をした頃がこの時期でしたね。 ロンはあまりタケダ君には懐きませんでしたが、彼はロンに会うたびに 「人間でいえばU子さんのように美形だよ、ロンは」と言って大人しく座っているロンの頭を撫でていました。
とある初夏の暑い夕方、私たちはいつものように帰宅しました。すると私の自宅前に子猫がウロウロしていました。まわりを見渡したのですがどうもノラ猫のようです。私が抱きかかえても抵抗なかったので生まれてからしばらくは人間に育てられた捨て猫だったかもしれません。
いつものようにロンの相手をしているタケダ君にも見せようと軽率にロンと子猫を近づけたのが悪かったのです。ロンは気性も大人しく猫などを見ても相手にしない性格だったので私は全く意に反さずにいたので、思わぬロンの興奮振りに動揺してしまいました。その瞬間子猫も驚いたのか私の手から落ちて、車の下に行ったのですが、そこから金縛りのように動きません。 とにかく子猫をロンの目の届かないところにやらねばと思い子猫に手を伸ばすのですが、子猫もそうやすやすと捕まってはくれなくて...何を思ったかいきなりロンの行動範囲内に飛び込んでしまいました。 ボケてはいてもその辺のスピードは人間のかなうものではありません。
私はあんなに興奮して豹変したロンを見たのは初めてでした。同時に動物にとっての「老い」の現実を見せられてひどく自己嫌悪しました。ロンに対しても子猫に対してもひどいことをいとも簡単に成してしまった自分の軽率さを責める言葉は見つからなかった。
自宅の裏に小さな祠があったのでそこの鳥居の近くに子猫を埋葬しました。宗教的な偶像など信じる気にはなりませんでしたが、その時はこれが私に出来る精一杯のことでした。
その夜、大好きな牛乳をカップに入れて持っていくと、ロンはいつものように喜んで私を迎えてくれました。
ごめんね ロン
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