『嶋』さん宛に書いた手紙で投函しなかったものが私の手元に今でも残っている。この日記を書かなければ一生思い出さないだろうことがそこには色々書いてあります。それを投函できなかった理由は様々なんでしょうが、根源にある理由は「自分が偉そうに考えを述べるのはおこがましい」とでも思ったんでしょうかね。 今日はその中にあった「タケダの休学」について。
タケダの家庭は彼が幼い頃に母が離婚して、転校当初は再婚相手である養父のもとで暮らしていたのですが、おばあちゃん子だった彼はもともと実母とも折り合いが悪く当然のように養父になつくこともなかったので、高2のこの時期に彼は祖父母との同居状態を選ぶようになった。 それに怒ったかしらないが、養父が彼に対する縁組を解除して彼の経済的支援が無形化してしまったのが休学の原因なのだが、本筋としては「学校を退学して働く」というところでタケダの腹は決まっていたようだった。もともと祖父母に金銭的負担をかけたくなかった彼は中学の頃も新聞配達などして家計を助けていた。
養父は弁護士だったのだが、アタマの切れるタケダの主張は的を突いており、若くして彼を生んだ実母に対する養父の愛情のなさを感じていたことなども含めてこれまでの鬱憤が彼の中で頂点に達し、お互い引くに引けなくなってしまったのであろう。
こうやって時間がたって振り返ると断片化していたパズルがいとも簡単に組める。当時情報として小出しに得ていたものを組み上げていけるほど、当時は他者の人生に興味も責任も持てなかった。
タケダがバイトをするようになったのはこういった経緯もあったんですね。
結局タケダは退学はせず一時休学だけで戻ってきたのだが、このことが彼のその後の人生を大きく揺さぶったのは言うまでもない。
2学期の始業式だったかタケダに「話がある」と呼ばれ、生物室で話したことが退学の件についてだったはずだが、いったい自分がどんなリアクションをし何を思ってどう彼の力になったのか全く覚えていない。ひとつだけ言えるのは、私の言動がタケダの中を動かす原動力になるはずがない、と自分の無力を信じていたこと、それくらいだ。
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