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あとがきがないのだけど帯が「村上龍」になっていてこう紹介されている 「この小説は、絶望的に弱者の側に立とうとする人間を描いている。それが楽観的過ぎる思い込みか、あるいは希望へとつながるものか、その判断は読者にゆだねられている」 大企業の人事課長橋田浩介は38歳。エリートコースまっしぐらでハンサム、仕事だけに生きている。その彼が男に絡まれている短大生中平香折に出会ってからなぜか彼女のことが気にかかって彼女の存在を心の中から消すことができなくなる。 はじめ大雑把に読み始めて途中でやめれなくなり、飛ばし飛ばし最後まで読んでしまう。そしてもう一度今度はじっくりと時間をかけて読んだ。 大企業の内部を書いた企業小説かと思ったほど政治家と経済界の内幕が手に取るように書かれている。献金の事実、父とも慕う社長の裏切りによる上司の自殺などなど、派閥間の抗争に翻弄され、その忙しい日々の中に香折が抱えた問題は日も時間も考える暇もないほどに入り込んできて彼を捉えて離さなくなる。 香折は幼いころから母と兄から暴力を振るわれつづけ、自分自身を汚いものと思い込んで生きてきた。誰一人信じることもできず、自分させも信じることもできず、愛することなど決してできない。 浩介には誰もが振り返るような美人で聡明、その上エリートの家庭で育った恋人がいる。その恋人とともに過ごしこの上なく愛されて、大事にされているのに心の奥にいつも泣いている香折が住み着いている。 香折はとうとう兄によって意識不明の植物状態になってしまう。 その時になって初めて浩介は自分の本当の居場所を知るのだ。 しかし、しかしだ。 浩介が駿河に一切をしゃべってしまい、その結果彼は死を選ぶ。 つまり駿河に引導を渡したのは浩介である。浩介は社長に対して辞表を出す前に駿河の写真に土下座を迫る。 このあたりまでは違和感は感じなかった。 でも、恋人の瑠衣が浩介に言う。 「父がいつも言ってたの・・・最後に走ってるときに横に男がいたら男に先を譲れって」 この小説の中の瑠衣はそれまで、最高の女性だと思っていた。 このせりふはあまりに違和感がありはしないか。古風すぎる。 それに、彼にはどうにも突き動かされるものがあってそのときには暴力だって振るってきた。香折に対して付きまとっていた男に、そしてカラオケで出会って絡んできた男に。それに同僚は容赦なく飛ばした。 そこまで冷酷にもなれる男が自分の居場所は香折の中にしかないと思う。 浩介は最後に香折を選んで、回復する見込みのない彼女を救う最後の手段として結婚届を出すわけだけど、そこにあるのは究極の愛なのかそれとも究極の同情なのか。 村上龍の言葉、思い込みか、あるいは希望へとつながるのか・・・ 私には、もう少し何か良くわからないけれど消化不良的なものが残ってしまった。 この小説はデビュー作だそうだ。 つぎの作品をぜひ読んでみたいと思っている。
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