パラダイムチェンジ

2006年01月16日(月) キングコング

今回は映画ネタ。見てきたのは「キングコング」
この映画を一言でいうと、「ジャック・ブラックが怪しすぎ」である。

当初の予算をオーバーしてしまったため、監督であるピーター・ジャク
ソンが私財を投じてまで完成したらしいこの映画。
その甲斐もあって、ピーター・ジャクソンのこの作品にかける愛情だけ
でなく、3時間という時間があっという間に過ぎ去るほどの良質のフィ
クションを心ゆくまで堪能した、という感じなのだ。

映画は1930年代、世界大恐慌のさなかのニューヨークから始まる。
ナオミ・ワッツ演じる、コメディ女優のアンは、出演していた劇場が閉鎖
の憂き目にあい、職もなく食べ物にも不自由している時に、映画のプロ
デューサーであるジャック・ブラック演じるカールに出会い、映画の出演
と、撮影のための船旅に誘われる。

で、この出だしの不況下のニューヨークの有り様から手を抜いていない、
というかデティールの細かさにどんどんと引き込まれてしまうのだ。
キングコングという怪獣映画にとっては、キングコングのいる骸骨島
での冒険や、クライマックスでのニューヨークでの大暴れが一番の力を
入れるところだと思うんだけど、その巨大な怪物が1930年代のNYに現れる
というフィクションをよりリアルに見せるためには、当時の時代背景や、
はたまた細かなデティールをご都合主義にはしない、というピーター・
ジャクソンの意思が表れているようでもあり。

それは、物語前半の舞台となる謎の島、キングコングの住む骸骨島につい
ても同様であり。
原住民のくだりに関しては、さすがにご愛嬌というか、あれはオリジナル
通りだと思うんだけど、その他の島の中での冒険は、本当に世界のどこか
にはまだ、こんな島が実在するんじゃないかな、と思わせる説得力にあふ
れているのだ。
やっぱり細部に神は宿るのかもしれない。

それは「ロード・オブ・ザ・リング」同様にCGとニュージーランドの大自然
の合作の賜物といえるのかも。
恐竜なんかも、実際に人間と共演したんじゃないか、と思うくらいのリア
ルさだったし。
島に棲んでいる巨大昆虫なんて、本当に身の毛もよだつ感じだったし。

この映画の主役、キングコングもこれが着ぐるみだったらこういう感じに
はならなかったろうしなあ。
そう思うとこの映画、CG技術が熟成してきた今だからこそ、これだけの
迫力になったのかもしれない。

それに映画を見ていて面白いな、と思ったのはコングの表情の豊かさに
よって、見ているこっちが共感する、というか引き込まれるのである。
大道芸人でもある女優、アンの仕草に興味がひかれたり、はたまた知らん
ぷりだったりするあたりが妙におかしくて。
物語の後半、ひとりぼっちでしょぼーんとしているキングコングは、
なんかかわいいというか、萌え〜って感じだし。

また、その恋?の相手であるヒロイン、アンもなんかこう悲劇のヒロイン
って感じがしないんだよね。
私が以前見た、キングコングの映画は'77年版だと思うんだけど、その時
の方が、悲壮感が漂っているような気がして。
それはナオミ・ワッツの存在感がそう感じさせるのかもしれないけれど。

でもこれって何かに似ているなあ、と思ったら、「オペラ座の怪人」の
ファントムとヒロインの関係に似ているんだ、と思ったのである。
彼らのツーショットのバックに「Angel of Music」が流れていても違和感
がないというか。

それだけヒロインのアンがコングに魅了されていくのが、不自然じゃなく
描かれていて。
そう、この映画ってコングとアンの恋の物語なのかもしれない。

また、その悲劇の恋の仕掛け人にあたる映画プロデューサー役のジャック
ブラックが怪演をしていると思う。
この役回りって、手塚マンガでいえば、「アセチレン・ランプ」にあたる役
だと思うんだけど、ジャック・ブラックが演じていると、何というか、
あまりいやらしく感じないのである。

色々と危ない橋を渡り、人をだましているんだけど、何となく憎めないと
いうか。
ジャック・ブラックが演じると、目に宿る狂気が全ては映画の完成の為
なのだ、という感じがして。

でもって、私の勝手な思い込みでいえば、そのプロデューサー役と
この映画の監督、ピーター・ジャクソンが重なるんだよね。
もしもピーター・ジャクソンが同じ状況にいたとしたら、多分同じ事を
したんじゃないかなあ、というか。

彼が初めて見た映画だったか、初めて買ったフィルムが'33年版のオリジ
ナルの「キングコング」だったらしいけれど、多分この映画の中で、彼は
一人の登場人物として、その映画の世界の中を旅したかったというのが、
この映画を作った動機なんじゃないのかな。

そんな事を考えてしまう位、作品に対する愛情があふれた映画でした。
もう手放しでオススメの作品である。


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harry [MAIL] [HOMEPAGE]

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