![]() |
![]() |
|
![]() |
![]() |
![]() |
虫に踊らされる男 2003年04月24日(木) |
昨日の日記に食事中に来襲する虫の話を書いたら、 昨日の今日で、 夕飯のスープからは干し椎茸についていたと思われる、 虫の死骸(3匹)が発見され、 牛肉と青梗菜の炒め物には羽虫が着地した。 もはや嫌がらせ以外の何物でもあるまい。 浅からぬ因縁を感じないでもないが、 前世が虫だった、なんて事はできれば考えたくない。 今日は昨日書けなかった虫に関する思い出を追記する。 昨日ほどの露骨な「虫描写」は無いが、 それでも引き続き、虫が苦手という人には、 進んで読むことはお勧めしない。 僕が通っていた高校は、ゴリゴリの男子校であった。 華は愚か、葉っぱさえ存在しないような、 それはもう荒涼とした高校生活であった。 校則だけ はやたら厳しかったその学校では、 制服は漆黒の学ランに白シャツ、 茶髪にしようものなら即指導室に軟禁された。 そんな不毛な高校生活の1年目、 ある晴れた初秋の朝礼時の事だったと思う。 さて、まずは想像してみて欲しい。 我が母校は学生総数3000人のマンモス校であった。 勿論生徒は全て男子。 その大集団が全員黒ずくめの学ランを着用し、黒髪なのだ。 しかも変に進学校を気取ろうとしてはいたが、 昔から体育会系の運動部が強い学校だった。 自然と生徒は地黒になる。 これはもう黒い。 黒すぎる。黒いったらありゃしない。 そこへ、だ。 最早寿命も尽きようかという、弱った蜂さんが飛来した。 まさに飛んで火に入る夏の虫。 彼から見れば、その3000人の黒き集団は、 恐怖の対象でさえあったのだろう。 何せ彼らは「黒」がお気に召さないらしい。 「こ、こんな所にたくさんの熊さんが!?」(推測、蜂の声) ヨレヨレと、しかし、確実な意志を持って、 彼は着地した。 僕の肩に。 3000分の1の確率で僕は見事当りくじを引いた。 しかし、その時はそんな事にも気付かず、 ぼんやり空を見上げていた。 まず、その蜂さんの存在に気付いたのは、 僕のすぐ後ろに並んでいた井川君(仮名)だった。 「お、おい…。お前、肩に蜂が止まってるぞ…」 「まじかよ!?と、取ってよ!」 「いいか、落ち着け。動くんじゃないぞ」 「うん…。わかった」 当時、僕は井川君とはただクラスメイトというだけで、 何の親交もなかったはずだ。 しかし、そこに、やや刹那的ではあるが、 熱き男の友情と確実な信頼関係が生まれたのだっ! 「今お前が動いたら、 刺されんのは俺なんだからな! 絶対動くんじゃねぇぞ。」 熱き男の友情はあっという間に冷め、 確実な信頼関係は音を立てて崩れ去った。 所詮は誰しも自分が一番大切なのだ。 即席の親友にあっさり裏切られた僕の肩で、 蜂さんは最後の力を振り絞って思い切り羽ばたいた。 あなたは、 すぐ耳元で蜂の羽音を聞いたことがあるだろうか。 しかも、それが「蜂の羽音である」と認識した上で。 この恐怖を言葉にして説明するのは難しい。 よく「声にならない叫び」というのがあるが、 その時、僕ははっきり声を上げて叫んでいた。 「っさぁぁぁぁーーーー!!」 折しも朝礼は校長先生のお話が終り、佳境に入っていた。 しんと静まり返った朝の校庭に、 僕の叫び声はしっかり響きわたった。 混乱はまずクラス全体に広がり、 そして更に恐ろしいことに、その混乱は、 錯乱しきった蜂さんの飛行軌跡と共に、 なんと1年生全体へと広がっていったのだ。 考えてみてほしい。 たった1匹で1学年1000人を混乱に陥れた、 その蜂さんの破壊力を。 その1000人の混乱の引き金となった1人の少年の、 ナイーブな心の動揺を。 結局、その蜂さんに刺されたのは、 僕の列から遠く離れた特進クラスの坊ちゃんだった。 しかし、大混乱発動の張本人である僕は、 「柔道場にて一日謹慎」という謎の処分を受けた。 自分が何か悪意を持って行動したわけでもないのに、 処分を受けることになった16歳の多感な少年の気持ちが、 如何に荒れたかは想像に難くないだろう。 最後の一刺しを果たした蜂さんのその後の命運は知らない。 だが、あの熱気と臭気に包まれた柔道場で初めて知った、 人の運命を翻弄する「理不尽」の存在を、 僕は決して忘れることはないだろう。 ちきしょーッ!! |