世の中に絵本はどのくらいあるのでしょう 読んでも読んでも・・・後から後から出版されます たくさん読む機会があると 自分でおはなしを作った時 どこかが似ているように思われます こういうおはなしも・・・どこかで出会っているような・・・
夏休み 第2段です
シリルの夢
暑い暑いジャングルの中 背の高い草で覆われて 今日も静かに川は流れています
どこからが川で どこからが岸なのか 探らないとわからないくらい 草や木が茂っていました
水は濁り 水面近くであっても 水の中には何がいるのかわかりません
その中に ワニのシリルが住んでいました とにかく草木のふかいところなので 生き物達はワニに食べられまいと 近寄ろうともしません シリルは誰かがきた時 驚かせてはいけないと 注意深く水面に波など立てないようにしていたのです
『誰も来ない 僕の姿がゴツゴツと怖そうだからかな とがった口が大きく開くからかな それともその中のたくさん並んだ歯のせいかな』 そうです・・・・ 実はシリル お友達が欲しくて仕方がありません 一度でいいから 川の上を飛び交う鳥のように 仲間と楽しくおしゃべりしながら 出かけたり 食事をしたいと思っていました
『誰かお友達になってくれないかなぁ』
シリルは尋ねてくる誰かを 怖がらせないように ゆっくりゆっくり水の中を進み 口はぎゅっと閉じて 背中のゴツゴツはできるだけ水の中に隠していました
すこしだけ頭を上げて 水面から目と鼻を出し 空気を吸おうとしたときです 何かが目と鼻の間に落ちてきたような感じがします シリルがそうっと目を開けてみると なんとも美しい羽根をした かわいらしい鳥がとまっています
『あっ・・・鳥だ』
でもシリルは鳥が驚いて飛んでしまわない様に じっと動かずにいました 挨拶もしなかったのです
『いいぞいいぞ・・・じっとしていればきっとお友達になれる』
シリルはワクワクしてきました 鳥が止まりやすいようにもう少し頭を出してやりました すると シリルの目の後ろあたりが ポワッと温かくなったのです 『何かな?』
シリルが緊張して動かずにいると 鳥が話し始めました
「やぁ ねずみさん 冬の木の実は集まってきたかい? 今年は どんぐりの実が大きいらしいねぇ よかったじゃないか」
「ああ おかげさまでね でもまだまだ集まらないよ なんといっても冬は長い 用心に多めに集めようと思っているのさ」
シリルはびっくりしました
『僕の頭に ねずみがいるのか これは大変だぞ よっぽど気をつけないと ねずみは臆病だからな すぐに逃げてしまう そうっとそうっと・・・・』
シリルはねずみがゆっくりできるように すこしだけ肩を出してやりました すると今度は背中のあたりに ドシッと重みを感じたのです
『おやおや 今度は 誰だろう』
シリルは鳥とねずみに充分気をつけて 背中のあたりに感じる重みが何か 想像しました するとねずねの声が聞こえてきました
「やぁやぁ あらいぐまさんじゃあないか 何かおいしい物でも 洗いにきたのかい?」
『背中の重みは あらいぐまなのか これはよくよく気をつけないと あらいぐまはそそっかしいからな 食べ物を水の中に落としてしまうぞ ゆっくりゆっくり・・・・』
シリルはあらいぐまが手を滑らせて 食べ物を落としてしまわないように ゆっくりゆっくり背中をまっすぐにしました すると今度はしっぽのあたりを あっちこっち動き回るものを感じました
『あれれ 今度はどなた? なんて忙しそうに歩くんだろう』
シリルは動き回っている下が 怖いワニだと勘違いしないように しっぽを優しくまっすぐに伸ばしました
「おやまぁ とかげくんかい 今日はまたずいぶんと忙しそうだね 着替える所でも探しているのかい?」
『とかげだって? きっと今の服は窮屈になってしまって 着替えようって言うんだな? 落ち着いて着替えられるように もう動かないでいよう』
シリルはこんな事初めてです 誰もが怖がって寄り付かない自分に こんなにたくさん集まってくれた お礼が言いたい 挨拶もしたい 顔を見てみたい そんな気持ちで胸がいっぱいです
『今動いたり挨拶なんてしたら 怖がって2度と この川には近づかないだろうな どうしよう・・・どうしよう・・・・』
そのうち 鳥とねずみとあらいぐまととかげは なんとも楽しそうにジャングルの噂話や 自慢話をはじめました 笑い声 話し声があたりに響くようです
『よーし これなら大丈夫 「こんにちは」って 言って見よう 「みなさん こんにちは」って きっとお友達になれるぞ』
シリルは自分でできる精一杯の優しい声で 挨拶をしました
「こんにちは〜」
・・・・・・・・・・
あっ・・・・・みなさん? みなさーん?
シリルの背中にいるはずの鳥やねずみやあらいぐまもとかげも 姿が全く見えません 遠くでシリルの声を聞いて バシャバシャと鳥の飛び立つ音がします
『なんだ・・・僕・・・眠ってしまったのか 夢だったんだね・・・・ それにしても楽しかったなぁ』
それからしばらくの間 シリルは夢を思い出しては 1人で微笑んでいました
・・・・・・・おわり・・・・・・
そうだったらいいのにな・・・ 絵本にはよく見られる展開です 少し寂しいので 子供向きではありませんね 孤独を感じるのは「心」です 心の孤独は嫌です シリルのような夢を見ていたら 心が孤独を忘れていられるでしょうか?
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