辰狐 2002年02月20日(水)
狐の足跡を見たことがあるかい? 一面に降り積もった雪の上 月や星の明かりをたよりに 獣たちは縦横にかける うさぎの足跡でも 鹿たちの足跡 野犬の足跡でもなく 狐のさ うん 尻尾がね どうして狐は 走らずにいられなかったのだろう 森の奥に潜んで 人間を恐れて 臆病な獣のままでいれば あんなふうに あんなふうに 機関車に向かってゆくなんて 愚かな事じゃないか (狐の走った跡はね 尻尾をずーっと引きずった その線がついているんだ 降ったばかりの柔らかな雪は まとわりついて重くなるから 尻尾の線も太くなるんだ) ごうごうと煙を上げて 嫁入り行列を打ち倒した 真っ黒な機関車は 静かだった丘を荒らして 大名行列に化けてみても 大きな鬼に化けてみても まったく迷いもせずに 走り抜けるばかりだった 重い車輪に跳ね飛ばされて いったい 何匹の狐が倒れただろう それでも 狐は 止めなかったのだ 走ることを 走ることを 獣道を 走ることを 狐がね 走った後には 尻尾の跡がついているんだ 雪原を横断する ぎらぎらした銀のレールの横で その足跡は 途絶えているんだ |
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