放たれぬ、もの 2002年05月13日(月)
鎖骨の間でためらいつづけ やがて かすかに震えながら 羽虫は指先へと落ちていった 白い紙の上に ほっそりと長い足を伸ばし それでも 虫は迷っている 本当は とてつもなく簡単なことで この唇を寄せて その耳に 吹き込んでしまえば 閉じることの出来ない鼓膜は 小さな羽と共に震え あなたが何を聞くのか 伝わってしまうものを 確かめるのが 恐ろしくて 目は閉じることが出来るのです 机の上に置かれた白い紙を 貴方が眺めなければ 私は何も想わず 貴方は何も知らず ただ すれ違っただけだと そう言い張ることができるので 紙の上で迷う虫を 指先で押さえつけて けれど 握りつぶしてしまうことは やはりできなくて 机の片隅に 重ねられた紙は 日に日に黄ばんでゆくのです |
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