あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 ユグドラシル 2002年05月28日(火)

探すな
娘達よ探すな

その手にした果実の甘い蜜が
厚い樹皮の下の導管を伝わり吸い上げられた水と
輝く太陽の交接で生み出だされる過程を想像するな
若葉がどれほど透き通っていようとも
花がどれほど芳しかろうとも
実りがどれほど豊かでも

娘達よ
愛でるのは美しく明るく楽しげなものばかりで良いではないか
くちづけ踊り歌い戯れ抱き合い眠れば良いではないか
白い踵を踏みおろし野を駆けていれば
世界は全てお前達のために用意されたもので
お前達がすべきことは笑い声を上げ幸福を誇示することだけだ

探すな
娘たちよ探すな
震える胸の鼓動を誰かに伝えるために
見交わす眼差しとたどたどしい指先の愛撫以外の方法を
身体の表現は確かに陳腐だが
罪深さとは無縁の瞬間の誠実さに溢れている

娘達よ
果樹の根はただ漆黒の暗闇の底へと穿たれ
樹皮の下に陽光が差し込むことは無い
大地の底にあるのは喜びなどではなく
捨てられ積みあげられ省みられることのない残骸だ
躯から吸い上げられた水などに惑わされ
不実な言葉など覚えるな

娘達よ
世界の喜びを語ろうとするな

暗く伸びる根に刺し貫かれた
俺の躯など探そうとするな


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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe