あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 墓守 2002年08月17日(土)


 雨宮家のお墓は、年々傾いています
 年毎に傾くので今では
 しゃがんだ身体を20度ほど傾けねばなりません
 コの字型に並ぶご先祖様たちの
 右へ傾く人と前へ傾く人と後ろへ傾く人の
 誰が一番大変なのでしょうか
 お盆にわざわざ帰ってきて
 傾いていなければならないなんて

 傾いた提灯をぶら下げて
 竹やぶの中を下ります
 他の家のお墓は傾いていないのに
 どうして家のお墓だけ
 後ろに続く人は
 答えてはくれませんので
 雨宮さんは傾いた体を難儀に思いながら
 坂道を下ります
 傾いた人たちを連れて

 早く直さないと家が傾くわよ、
 親切な人たちが忠告してくれますが
 もう手遅れでしょうと
 雨宮さんは笑います
 建てたばかりの家は真っ直ぐに見えますが
 歩いていると時々壁にぶつかります
 座っていても時々片方の足が床から離れるので
 きっと傾いているのは身体のほうでしょう
 そもそも子供も居ない自分だけの家が
 真っ直ぐ伸びていくわけがないのです

 傾いていく身体は
 傾いていくお墓にぴったりと収まりそうで
 時々雨宮さんは想像します
 真っ直ぐに立ち並ぶ死んだ人々のなかで
 そこだけ傾いた一群の事を
 神様からはきっと良く見えるでしょう
 ドミノの始点のように倒れていってしまわないか
 きっと心配になって
 摘み取られるかもしれません
 もしかしたら

 雨宮家のお墓は年々傾いています
 傾いた人たちはお盆の毎に帰ってきて
 傾いた姿勢のまま
 帰っていきます


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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe