あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 ヒトリガ 2002年10月10日(木)


何度も焦がれて
何度も
それでも届かないのです
朝の光の場所までは

小学校の通学路は
クヌギの森を抜けていました
夏の朝
枝から落ちた緑色の毛虫を
踏み潰しながら駈け抜けたのです
私達にはその先しか見えなかったのです
未来へ
生きる事はなんと目まぐるしい行いなのでしょうか

やがて秋の始まりと共に夜は湿って
閉じた窓を
誰かが何度も何度も叩くのでした
それは
無邪気な足をくぐりぬけた緑色の羽化
大きな翅は身を焦がす炎を見出せぬまま
冷たいガラスを満たす輝きに惑わされ
叩くのでした
重い身体の全てを預け

夏虫は焦がれて飛ぶのです
焦がれて焼かれ
落ちるだけだとしても
それが夏虫の生命なのです

私の足は短く
クヌギの森を抜けるのはいつも必死でした
踏み潰した無数の運命が
いつか私を踏み潰しに来るのではと
振り向くことを恐れて
走りつづけていました
ずっと
やがて貴方に出会い
それでも私は走りつづけました
貴方は遠く
遠くにある太陽のようで
どれほど走りつづけても届くことはないのでした

振りほどかれて
そして私もまた一匹の蛾なのでした
いくつもの足を潜り抜けて
こんなにも長い腕を持ちながら
求めるのはただ一つの輝きだけなのです
いつか焼き尽くされ
落ちる日を夢見ながら
焦がれつづける愚かな翅なのです



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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe