あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
 冬耳 2002年10月27日(日)

「──雪が、どこかでふっているね」

風を嗅ぎわけて君が笑う
見上げれば、彼方
山の頂きは灰色に輝く雲に覆われ
雪が、降ってるね
どこかで
冷たい風は音を封じ込めて
小さな盆地の町は
おおん、おおん、泣き声を上げる

どこかで降る雪の匂いと
もうすぐ降る雪の匂いははっきり違うのだと
君は主張する
二つをかぎ分けられない僕は
君の頬の赤さを見分ける
一昨年よりも
去年よりも
君の頬はうつくしく
冬の到来を知らせるのだ

寒さの中、林檎が熟れていく
陽光を浴びる樹上、音も立てず
赤みをましてゆく
差し出された指先は凍えていて
けれどしっかりと握り返した

君は季節をかぎ分け
僕はそれを見分ける
次に来る春を、夏を、秋を
そうやって数えながら
冬を待っている
いつだって

繋いだ指先が温もる頃
雪雲はおりてくるだろう
小さな盆地は雲に閉ざされ
やがて
ふり出した雪に
匂いも
色も
音すらも
すべて封じられて
ただ
しんしんと耳鳴りだけが
身体に響くだろう

その音を待つ僕らはひとつの耳たぶ

「──もうすぐ、雪が降るね」
息をひそめて。



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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe