あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
祝言歌 2003年11月11日(火)

おめでとう、とまずは言い

祝言を迎える娘に
ひとそろいの包丁を送ろう
刃は研がぬままに
ひとそろいの包丁を送ろう

産み落とした娘のために
百の生命を殺しただろうか
千の言葉を殺しただろうか
汚れぬようにと
壊れぬようにと育てたお前が
愛を知ったと賢しらに言う

娘よ
包丁を砥ぎなさい
愛という言葉を口にして
お前は戦う者になったのだから

寝屋の暗がりに潜む
落胆をそっと殺しなさい
朝の台所から
匂い立つ退屈を殺しなさい
隣の庭に茂る
美しい誘惑を殺しなさい
小鳥が虫をついばむように
他の仔を猫が噛み殺すように
蟷螂が雄を食い殺すように
愛がどこかへ逃げないように

おめでとう、とまずは言い
娘よ
お前に包丁をあげよう
砥ぎ続け
砥ぎつづけて


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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe