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個室に入って二度目のお正月を過ぎた頃、ドクターから呼び出しを受けた。 あれだけ悪さをしていたMRSAが、急激に減少していると云う朗報だった。 このままいけば後少しで、一般病室に戻れるかもしれないと云うおまけ付きだった。
長かった個室生活とも後少しでお別れ。 個室は個室として良いこともあった。気兼ねなく話しができて、 大声で歌を唄えて、悲しくなると泣くこともできた。
けれど一般病室への移動は、一歩どころか十歩前進なのだ。 もしかしたらこのままこの部屋で・・・ と最悪の状況を考えたことがある私にとって 地獄から天国へ浮上した気分だった。
ついにその日がやって来た。 仕事の都合で手伝いは伯母に頼んだものの、就業後ダッシュで病院へ駆けつけた。 ナースステーションの隣とは云え、れっきとした6人部屋だった。 同室の患者さん達にご挨拶をして回ると、皆さん暖かく迎えて下さった。
ただ一人母だけが状況の変化に付いていけず、 相変わらずの大声で独り言を言うのには閉口したけれど・・・
少し希望が見えてきた。 例え寝たきりだって、そこに母は存在してくれていたから。 そこに行けば母が居る。そう思えることがとても幸せだった。
調子が良くなったら一時帰宅も可能だと聞いて しまい込んでいたポータブルトイレを引っ張り出したりした。
前ほどに病院への足取りが重くなく、 ドクターの顔を見るのが苦痛ではなくなった。 何という単純さだろう。 だけど人間って、そんなに単純な生き物なんだ。
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