たそがれまで
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2002年10月02日(水) 母のこと 6



個室に入って二度目のお正月を過ぎた頃、ドクターから呼び出しを受けた。
あれだけ悪さをしていたMRSAが、急激に減少していると云う朗報だった。
このままいけば後少しで、一般病室に戻れるかもしれないと云うおまけ付きだった。

長かった個室生活とも後少しでお別れ。
個室は個室として良いこともあった。気兼ねなく話しができて、
大声で歌を唄えて、悲しくなると泣くこともできた。

けれど一般病室への移動は、一歩どころか十歩前進なのだ。
もしかしたらこのままこの部屋で・・・
と最悪の状況を考えたことがある私にとって
地獄から天国へ浮上した気分だった。


ついにその日がやって来た。
仕事の都合で手伝いは伯母に頼んだものの、就業後ダッシュで病院へ駆けつけた。
ナースステーションの隣とは云え、れっきとした6人部屋だった。
同室の患者さん達にご挨拶をして回ると、皆さん暖かく迎えて下さった。

ただ一人母だけが状況の変化に付いていけず、
相変わらずの大声で独り言を言うのには閉口したけれど・・・


少し希望が見えてきた。
例え寝たきりだって、そこに母は存在してくれていたから。
そこに行けば母が居る。そう思えることがとても幸せだった。

調子が良くなったら一時帰宅も可能だと聞いて
しまい込んでいたポータブルトイレを引っ張り出したりした。

前ほどに病院への足取りが重くなく、
ドクターの顔を見るのが苦痛ではなくなった。
何という単純さだろう。
だけど人間って、そんなに単純な生き物なんだ。




東風 |MAILHomePage

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