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転院して1ヶ月、思いもしなかった事態が起こった。
「人工骨頭を入れている周りが膿んでいます。 痛みを伴っているようなので、いっそのこと取ってしまわれませんか?」
「つまり、それは、手術が必要だってことですよね? あの・・手術に耐えられないのではないでしょうか・・・」
「大丈夫でしょ〜。後はSWと相談してね。」
ドクターとそんな会話を交わしたのだった。 私の頭は混乱した。 だって、 体力が持つの? MRSAだったけどいいの? 本当に必要な手術なの?
だいたいこのドクターは、母がMRSAであった事を知っているのだろうか 転院する時に持たされた、これまでの病状が記載された手紙には、MRSAの ことが記入されていたんだろうか。 普通なら自分が不利になる記載はしないよな・・・
もしも記載されてなかったとして、知らずに手術なんてしたらどうなるんだろう。 私が「母はMRSAでした」なんて言ったらどうなるのだろう。
その時、私の頭はパニックになった。
冷静になった今、考えてみると、MRSAだったからといって 手術か出来ないと云うことはないのだと思う。 体力的な問題は疑問があったけれど、ここの主治医も 総合病院のドクターもGOサインを出したのだから、それもクリアできてたのだろう。
だけどあの時の私は、平常心ではいられなかった。 誰かに相談したかった。だけど現在入院中の病院には相談できない。 「MRSA」と云う病名を告げていいのかどうかも解らない。 それでも医療の知識は必需・・・
前に入院していた病院で、母が「みかちゃん」と呼ばせてもらっていた彼女 彼女が頭を過ぎったのだ。 すぐ受話器を取り、以前母が入院していた病院へ電話をかけた。 彼女じゃなくてもいい。とにかく、あの病棟へ・・ ただ、転医書に「MRSA」の記載があったかどうかだけでも知りたかった。
聞き慣れたナースの方の声、誰だかすぐに顔も浮かんだ。 用件をざっと告げると・・・・・
すごく冷たい声で、冷たい口調で返事が返って来た。
「そんな事はお答えできませんし、もう退院された患者さんですから うちは関係ありません。」
彼女にも婦長さんにも取り次いでもらえないまま受話器を置くしかなかった。 頭を強打された気分だった。 それまで抱いていた優しさが溢れていたあの空間のイメージが 一瞬にして私の中で凍り付いた気がした。
無茶は承知で、いや、あの時の私はそれが無茶なことかどうかを 考える余裕なんてなかったか・・。 ただ藁をもすがる一心だった。
それが普通なの? あの3年間はなんだったの?
数多くいる患者の中の一人だと云うことは解ってる。 だけど、だけど、「関係ありません」って言葉は私を打ちのめすのに充分すぎた。
結局、伯母の言葉で手術を決めた。
「流れに乗ることも大切なんだよ・・・
目を瞑って、流れに身をまかせなさい。
それで溺れたら、その時はその時。」
最後まで、MRSAのことは、言い出せないままだった。
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