たそがれまで
DiaryINDEXpastwill


2002年10月13日(日) ミスから学ぶこと



アルバイトと社員の大きな違い
それは「責任」である。
アルバイトに責任が無いと云わないが
社員とは雲泥の差だ。

店舗内ではお客様から様々なクレームが出る。
商品そのものへのクレーム。
提供時間へのクレーム。
接客した者へのクレーム。

中には明らかに、お客様側に落ち度があるものも混じってはいるのだが
忍の一字でぐっと堪える。

ある時、アルバイトが間違った商品をお客様に渡してしまった。
明らかに店側のミスである。それも初歩的な恥ずかしいミス。
帰宅途中に気が付かれたお客様は、再び来店され、ミスを指摘された。
商品を渡したバイトの子がまだ勤務していたので、すぐに詳細は把握できた。
バイトに謝罪させ、私も責任者として頭を下げた。


まずクレーム処理の第一歩は謝罪である。
それもバイトであろうがなかろうが、当事者の謝罪から始まる。
お客様にとってはバイトも社員もない。
店内にいる制服を着ている従業員は全て同じ店員なのだ。

次に社員が謝罪する。例えどんなに小さな出来事でも、必ず報告して貰っていた。
明らかにこちらに落ち度が無い場合でも、まずは謝罪が原則だ。

そして、お客様の主張を最後まで聞かせて頂く。決して途中で、話しの腰を
折ってはいけない。最後までじっくり聞かせて頂く。
その上でこちら側にも主張があれば、やんわりと主張する。




その時はこちら側の主張などない。明らかに他のお客様に渡すべき商品を
お渡ししてしまったのだから。丁重にお詫びを述べ、商品を取り替える。
お客様は一頻り苦情を述べられて店を後にされた。

だけど忘れてはいけない。納得して頂いたとは思ってはいけないのだ。
本当にお客様が納得して下さるのは、次回以降の来店にかかっている。

次に来店された時、又同じミスを犯してしまうなんてもっての他であるし
通常に受け渡しを行って当然な行為なのだ。

しばらくした頃、あのお客様が来店された。
前回のご来店でミスをしたバイトの子も私もすぐにピンときた。
別のバイトが接客にあたっていたので、私は前回ミスをしたバイトの子に
お客様から見えないところで耳打ちをした。

「あのお客様には○○さんが商品を渡しに行ってくれる?
 そして、先日は申し訳ありませんでした。と言ってくること。
 もしも又怒られるようであれば、私も行くからね。
 行ける?」

彼女は気が進まないだろう。でも、ここで逃げちゃいけない。
今日逃げてしまうと、次回からあのお客様が来店された時
裏に逃げ込んでしまうかもしれない。だから、今日のこの時が大切なのだ。
一応、彼女の気持ちを優先させたつもりだ。
もしも断られたなら自分で行くつもりだった。

商品を恐る恐る持って行く彼女。
直接声は聞こえないが、丁寧にお辞儀をして渡している。
お客様が笑顔で何かを言って下さっている。
ふと遠くにいる私と目が合った。私もお辞儀をし、感謝の気持ちを伝える。

後から聞くと、
「覚えていてくれてありがとう。又来るね。」と言って頂けたそうである。
ここで初めて、一つのクレーム処理が終わったのだ。
彼女は嬉しそうだった。私もそう言って頂けたことに感謝した。


ミスは誰にでもある。勿論無いに越したことはないのだが、必ずある。
そして問題はそのミスを繰り返さないように努力すること。
だけど、ミスをした事を自分の負い目にしてはいけない。
そこから何かを勉強しなくては、ミスはただのミスのままである。


それから、そのお客様は来店されるたびに彼女を目で探しておられた。
「今日はお休み?」と尋ねられることもあり、そのお客様のお気に入りの
店員になったようである。
逃げなかったから、そういう関係が築けた。
ついでに私まで目にかけて頂いた。接客業冥利につきると云うものだ。


学校を卒業して彼女はアルバイトを辞めた。
就職先には大手の百貨店が内定していた。
身だしなみも礼儀も笑顔も満点の彼女だったから
良い店員になれるだろう。
そして、「ミスから逃げない」と云うことを学んでいるのだから
彼女の接客業人生は明るいと思う。


東風 |MAILHomePage

My追加