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ある日、夫に言われたことがある。 車の灰皿を眺めながらのことだった。
「へぇ〜、不思議と吸い殻の長さって同じなんだね。」
私は喫煙者だが、夫は昔から煙草を吸わない人である。 言われて気付くのも変だが、確かにほとんど同じ長さで吸い終わっている。
それがここ数日、吸い殻がいつもより長い。 風邪というか、扁桃腺の腫れで喉が痛くて仕方がない。 そのくせ煙草なんて吸っているのだから、どうしようもないのだが・・ 美味しいと思わない煙草なら、吸わなきゃいいのに。 自分でもそう思う。なのに無意識で、煙草に手がでる。喫煙者の性である。
私が煙草を吸い出したのは、 法律で定められている二十歳を過ぎてからのことで、 きっかけはただ「寂しかったから」それだけのことだった気がする。
当時の私は新婚で、誰が考えても幸せの絶頂と思われていただろう。 でも趣味の合わない(当時の)夫とは、休日はいつも別々だった。 夫は山へキャンプしに、私は母とドライブに。 夫が一度譲ってくれたら、私も一つ譲ってあげる。 あくまでも先に譲るのは夫からで、私の方からではない。
夫が転勤で、隣の県に移り住んだ。 最初はついて行ったのだけど、すぐに逃げ帰ることになった。 夫の出勤時は一人。夫の休日も一人。 休日の前夜からキャンプに行く夫を横目に、私も里帰りをする。 2時間のドライブ中に、私の喫煙が始まった。
気にかけて欲しかったんだと思う。 かまって欲しかったんだと思う。 もっともっと私を見て欲しかったんだと思う。
だけど、自分からは何も言わずに求めているだけ。 それじゃあ何も伝わらない。 今ならそれが解るから、あの日に戻れるなら自分の耳元で囁いてあげたい。
もっと素直に もっと自然に 自分の気持ちを表にだしなよ。
嬉しい時には嬉しいって 悲しい時には悲しいって 寂しい時には寂しいって 楽しい時には楽しいって
そしたらもっと人生が 楽しくなる筈だから・・・ そんなに棘の道を選ばなくても 生きていける筈だから・・・
だけどあの日に気付いたら 今日の私はいないなわけで・・・・ 隣の(現)夫に、「どっちが良かった?」と聞いてみても 子供とじゃれ合っていて、相手にもされないや。 今は寂しいから煙草を吸ってるわけじゃない。 もうこれは悪しき習慣。
3人のドタバタを見ながら灰皿に火を押しつけると、 いつもの長さで消していた。 もう大丈夫。元気になったよ。 でももうちょっとだけ、病気の振りをしていたい気がする。 いつも以上に優しい夫が、ちょっと名残惜しかったりするから・・・
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