ミドルエイジのビジネスマン
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2003年06月07日(土) 大部長、スーパー店長にひざまずく

北国の、とある小売店舗を見学させていただいた。人口数万人しかいないその街の駅前アーケードはご多聞に漏れずひっそりと静まり返り、再生の兆しもない。

一方、見学した店舗は郊外の大通り沿いにあり、他業種の店舗と駐車場を共有しているので、ほとんどのお客様は車でやってくる。

見学者一行がお店に入っていくと、間髪をいれず現れた店長は30歳を越えたくらいだろうか、ちょっとオーバーなくらいに腰を折ってお辞儀をした。そして挨拶もそこそこに大きく手を広げ、お客様が入口から入ってすぐ踏むことになるカーペットに込めた思いを語る。「お客様が気持ちよく店内に入っていただけるように入り口は自動ドアにし、カーペットは大切な方をもてなす意味で赤い色を選んで、店内に長く伸ばしています。」
なるほど、カーペットの色にも意味があったのか。

「広い中央通路に立ったとき奥まで見通せるように商品の陳列棚は視界をさえぎるほど高くしていません。店内の照明は明るく、天井も白、床もほとんど白ですのでこの街のどのお店よりも明るい雰囲気になっています。」
なるほど、店内はとてもすっきりして広く見える。

「天井からプレートを吊下げて言葉で商品がどこにあるか説明するのではなく、棚に並んでいる商品群を眺めただけで分るように視覚に訴えるように努めています。」
そうか、道理でスッキリしていると思った。

店長は再び腕を大きく伸ばし、指先が床をこすらんばかりの大きな半円を両手で描いて奥の方を指して我々をいざなう。一行は魔法にかかった王様のように店長に従って歩き、説明を聞きながら店内を一周した。説明の度に、大きな身振りで熱意を語る店長の姿に、最初は大げさだなあと思っていたが、そのうち、これはわざとやっているのではなく、本当に心の底からお客様をVIPとしてもてなし、一品でも多く買ってもらうために、細かい心配りをしているのだということが次第に分ってきた。

陳列方法の一般的な手法として、重ねたダンボールの箱にカッターで窓を開け、中身を見せる方法がある。そういう場所があったので、「きれいにカットして中身を見せるようにしていますね。」とお上手を言ったのだが、それでは見方が甘いのだそうだ。「当店では、カットするのは上から2段目までにしています。重ねた段ボール箱に全部窓を開けてしまうと、箱ごと買って行きたいお客様が困ってしまうからです。お客様がさっと持ち運べるように、切っていない箱もすぐ隣に積んであります。」
オーッ、それほど売れるということか。

店長は説明しながら、商品を陳列棚の最前列に寄せたりしているのだが、所々そろっていないところもあった。聞けば商品を前に寄せても一周してくる間にまた売れて列が乱れてしまうのだそうだ。「こうやって一生懸命やっているおかげで、平日の日中でもレジの音が絶えることはありません」と平然と言ってのける。まさにそのとおりで、見学した平日の2時か3時くらいでも、おばさんや子連れのお母さんがレジに二人、三人と並び文字通りレジの音が止むことはなかった。

一通り店内を見せてもらった後、事務所で管理面の説明もいただいたが、立て板に水のお話で、大部長の同僚のどんな質問にも的確に答える様子から一朝一夕の付け焼刃でないことは一目瞭然であった。そもそも、狭い事務所の中ではちょうど従業員がお二人休憩中で話を全部聞いているのだから、事実と違うことは話せないだろうし、従業員も店長もすぐ近くで話していることをはばかる素振りは全くなかった。

聞けば立派な資格を持つ店長は元々大都会に住んでいたのだが、この店の開店に当たり、志願してやってきたのだという。初代店長としては体と店が一体になったかのような思い入れも当然と言えば当然だが、おそらく、ご自身のお休みの日も店のことを忘れることはないのではなかろうか。

我々を見送るためにわざわざ建物の外まで出てきて、腰を90度に折ってお辞儀をする姿を見て、明日からもっと一生懸命仕事をしようと思った。決まり文句の「脱帽」では済まない気持ちの大部長であった。








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