デイドリーム ビリーバー
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2001年10月31日(水) 静観

仕事先で、知っている顔を見かけたので声をかけた。
「ダイ君!」
「おー!久しぶりーって、いつぶり!?夏以来?」
「千里浜以来?」

添乗員にとって、行楽シーズンはかきいれどき。
この時期に、忙しくない人なんていない。

明日行くのが、北だったか南だったかも、一瞬わからなくなってしまうほどで
どれぐらい忙しいかを自慢しあうみたいな、学生みたいなガキっぽいノリで

「もう1週間、家に帰ってないー。聞いてよー!」って愚痴った。

家に帰る暇もないのに、携帯忘れて
ずっと携帯なしで仕事しているという、情けなくも無謀な話。

「よくそれで、仕事できるなー。プリケーでも買えば?」
「どこでよ!いつよ!」
「サービスエリアとか…は、売ってないよなあ」

短時間で、笑いながらいろいろしゃべって
別れ際にふと、彼が言った。

「そういえばNと最近話した?」

ダイ君は、月に一度の異業種飲み会のメンバーの一人。
仕事関係で知り合った人達の飲み会だったはずだけど、
メンバー入れかわり立ちかわりで同業は、今や、私とダイ君含めて3人しかいない。

私とN君は、最近時々二人で会っている。
そのことは、隠しているわけではないけど、多分まだ誰も知らない。
まあ、会っているって言っても、何があるわけでもないんだけど。

「先週会ったけど、なんで?」
「いやー、俺、昨日偶然会ったんだけど、なんちゅうか…うーん」
言いよどむ。
「なに?」
「お前ら仲良さげだったのに、昨日あいつにお前の話題ふったら ……あれ!?」

一瞬何かに気づいたように、目をぱちくり。

「さっき、一週間帰ってないって言ったっけ?」
「帰ってないよ。」
「この1週間、携帯もないんだっけ。じゃ、Nと連絡とってないの?」

番号もアドレスもわからないし、この間会ったきりだと言うと
「それでかあ」
ダイ君は、笑った。

「あいつ、ちょっと元気なかった。けんかでもしたのかと思ったけど、
 お前からメールの返事が来ないからじゃねーの?」

「やだー私って罪な女?」
わははって笑って、以上終わり。
二人とも仕事に戻った。

彼は、たしかに私を気に入っているようだ。
この間も、私に彼氏が出来ない理由について話していて

「お前もてるし、いい女やし、男おるって思われてるねんて。
 俺も、彼女おらんかったら名乗りあげてる」
とかなんとか。なぐさめか?

その彼女と別れて名乗り上げるぐらいには、好きじゃないのねー
と思ったりもしたけど、
ああ、彼は、私のことを好きになってきてるんだなー
とも思った。

先に惚れてしまった人間の、ささやかな特権よね。
相手の気持ちが変化してくると、すぐわかる。
それ以外は、負け負けなんだけど。


でも、最終的に決断を下すのは、彼自身。

彼には、長年つきあっている彼女がいる。
途中いったん別れて、もう一度復帰したり
支えたり支えられたり、そういういろんな積み重ねがある。

彼は、昔から人一倍結婚願望が強くて
結婚願望の薄かった彼女にも、最近、急に結婚願望が出てきてだけど
彼はそれとは別に、夢も持っている。
その夢のために、ずっと頑張ってきていて
実現させる為、将来、この国を出て行きたいとも思っている。
でも彼女は、このまちを離れたくなくて。
彼の夢にも、もろ手をあげて賛成はしていない。

そんな時に、私と知り合って。
しゃべったら気があって、仲良くなって。

“この女といたら楽だなー。俺の夢にも理解あるし”

そういう安直な、「楽な方へ流れる」みたいな想いは欲しくないのよね。
我儘かもしれないけど。贅沢かもしれないけど。


だから、私は静観する。
恋心はしばらく封じ込める。

連絡とる手段がまったくなくなって、一人になって冷静に考えて
私がほんとうに欲しいものは何なのか、わかったような気がする。

私のことは、とりあえず置いといて
彼もちゃんと考えて欲しい。
彼女のこと。
夢のこと。
人生のこと。

私からのメールがないぐらいで、私のことをあきらめる
それぐらいの想いだっていうなら、いらないよ。

彼女と結婚するならそれでもいい。

何かを決断するとき、
その決め手になるのが「今うまれた恋心」だけじゃないっていうことぐらい、
私だってわかる。


私の心は、もう決まったよ。あなたは、どうするのかな。


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