デイドリーム ビリーバー
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以前にも書いた、少々マニアックな、共通の趣味。 それを何度か、二人で見に行っている。 「誰もこの良さ、わかってくれないんだよなあ」なんて 私のこと誘う彼の言葉は、相変わらず、少し言い訳じみていて。 だけど私は、気付かない振りをしている。
その日は、二人とも、はじめからすごくテンション高くて 車を何時間も走らせながら 雰囲気を打ち消すみたいに、くだらない冗談ばかりを言い合っていた。
ファミレス何時間もねばって でもさすがに、 学生の頃のように朝まで粘ることができないぐらいに、私達は大人で
店を出たはいいけど、どちらも帰ると言い出さないまま
ていうか、ずっとゲラゲラ笑いっぱなしで そんなこと考える余裕もなかったんだけど、
目的もなく走る夜の道、 車のラジオから、なつかしいメロディが流れ出した。
「あ!この曲知ってる!なんだっけ!」 「俺も知ってる!なんやったっけ!?」 って、やっぱりハイテンション。
「あ!久保田や!」 「そうだ、久保田利伸だ!」 「何て曲やったっけ」
“言葉にできるなら 少しはマシさ” “互いの胸の中は 手に取れるほどなのに”
「Missing」だ。 突然 学生時代の友人の、ケイの、泣いてる顔がうかんだ。
あのころケイは、奥さんのいる人を好きで。
一人暮らしのアパートに、突然ケイが来たとき 何を言ったわけでもないけど でも何となく、わかったから
とりあえず飲み物出して、並んで座って ずっと黙ってテレビを見てた。
無言の私達には不釣合いな、お笑い系歌番組で ゲストの久保田利伸が 当時人気だった新ドラマの主題化と、そして、そのあともう一曲歌った。
聞きながら、私の隣でケイが静かに泣いてた。
“出会いがもっと早ければと”
それはくしくも、数日前に会ったとき、彼がつぶやいて 私が聞こえないふりをしたセリフと、ほぼ同じで。
“I love you 叶わないものならば いっそ忘れたいのに 忘れられない すべてが”
“I miss you 許されることならば 抱きしめていたいのさ”
「出よう!」
突然彼が、言って 引き摺り下ろされるみたいにして、車からおりた。
公園の中、走り回ってはしゃぎまわって 大笑いしながら
ジャングルジムに登った。 錆びた鉄の、鈍い感触。ずっと握ったままだと痛くなりそうなほど冷えていて それを後ろ手に、ヒールのままふざけて飛び降りたら ぐらついてもいないのに 彼が危ないって手を差し出して
ほんの少しだけ、指先が触れた。
笑いすぎて、少しお腹がいたいままで、 帰ってきた車の中は思ったより冷えていて、彼が暖房をつけた。
「はー疲れた」 「くたくたー」 なんて言いながら、シートにどっかりと座ったら なんだかもう、言うことがなかった。 「あー、笑ったー。おなか痛いー」 「ふうー」 とか、それぐらいで。 しばらく沈黙で。
「キスしよっか」
突然彼が言って。
「なにいってんの」って言ったら 「ごめん」って 彼が、笑うみたいに言った。
でも目が合ったら、とめられないって、わかった。
とても、熱くて長いキス。 背中に回された手が、痛かった。 私も、彼の背に手を回したけど、その手に力をこめることは 最後までできなかった。
次の日は休みだったので 一人、部屋のソファで あの日、ケイが来た時みたいに、膝をたてて、一日中座っていた。 胸がぎしぎしと痛かった。
夕方になって、ようやく涙が少し出た。
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