デイドリーム ビリーバー
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2001年11月21日(水) 木曜日と金曜日のこと

木曜日。
仕事から帰って、家で一息ついていたら、携帯にメールがきた。
彼からだった。

「とりあえず、明日は、いつもの場所でいい?」


明日は私、仕事だよ。羽田出発の2泊3日。
「いつもの場所」なんてのも、私達にはないよ。

彼女へのメール、間違って送っちゃったんだ。


なんて返そうか躊躇していたら、彼からすぐ電話がかかってきた。
とっさのことで出られずに見送ったら、次のメールがきた。

「ごめん。仕事中?今話せる?」
答えられず、しばらく携帯を眺めていたら

「少しでいいから話をさせてください。
それとももう、聞きたくないかな…」


ああもう逃げられないんだなって

携帯をカチカチ
「聞かせてもらいましょう」
三秒迷って送信した。

といっても、電話、何を話したわけでもないんだけど。
彼だって、今の時点で何が言えるわけでもないんだし。

ただ最後に
「宙ちゃん、俺のこときらいにならんとって…」って言ってきたので
「さあねー」って言ってしまった。

そりゃないでしょ、私。



翌日は羽田出発。
お客さん達が早く集合してくれたので、受け付けもスムーズに終わった。
お客さん達は搭乗口集合で
あとは、私も、搭乗口に行くだけってとき。

彼から電話がなった。
「宙ちゃん!今どこ!?」
「どこって羽田だよ」
「そうじゃなくて!もう乗った?」

妙に慌てた声だった。
乗ってたら、電源切ってるっつうの。

「まだだけど…」
「っていうか、今日○便やんな!?あーっ!」

突然通話が切れたと思ったら
目の前。信じられないけど。
彼が全速力で走ってきていた。

汗だくだくで。呼吸がちゃんとできてない。

「…もう搭乗口行かなきゃなんだけど」
びっくりした私が、こんな冷静なことしか言えないでいると

「うん、だから、手荷物検査まで送る」って
私の大きな鞄、かしてっていうように、手を差し出した。
鞄には、ツアー用の、結構な額の現金とか
30人分のチケットや、ホテルクーポンや、バスのクーポンや
とにかく、重要なものがたくさん入っているので
いくら信用できる相手でも、軽々しくは渡せない。
自分で持ってないと落ち着かないから、って言う私は
ちょっと冷たいかもしれなかった。

彼は、少し残念そうにしていたけど、
白い広々としたフロア、手荷物検査場まで、並んで歩いた。

「…なにやってんの」って、やっと言ったら

「なにやってんやろーな」
そう言って、彼は笑った。

本当は、「暇やったし」なんて言いながら
ついでみたいに見送ろうと思っていたらしい。
だけど、直前の仕事が長引いて、間に合わないかもって焦って
あんな全速力で走ってきたら、その言い訳もきかなくなってしまったって。

「こんなことも言うつもりなかったのに〜」
って、いつになく慌てている彼が
おかしかった。おかしくて、笑った。

彼と笑顔で別れた私は、搭乗口に向かった。
とりあえず仕事頑張ろうって、それ以外は考えないようにして。


ああ、でも。
走り出してしまったような気がする。

そう思った。


お互い、意思表示をした以上は、答えが出てしまうんだろう。

彼が、送り先間違えたメールについて、流さず、言い訳してきた以上は。
私も流さず、「聞かせてもらいましょう」って、送信してしまった以上は。
彼が「嫌いにならんとって」って、慌てて会いにきてしまった以上は。

きちんとつきあうのか、きちんとさよならするのか
曖昧な関係になってしまうのか。

浮気とか、二股とか、ちゃちな言葉が頭をかすめた。
そういうのだったら、やめなきゃなって
そういう人だったら、やめなきゃなって

やめるなんて、簡単にできないってことは、ギシギシと軋むみたいに痛む胸から
もうとっくにわかっていたけど

今までだって必死で生きてきたから
諦めたことも、くじけたことも、投げやりになってみっともないこともしたけど
それでも、なんとか、生きる事だけは諦めずに、頑張ってきた私だから
きっとまた乗り越える。

頑張って、泣いて泣いて
終わらせなくちゃならない時が
すぐ近くまできているのかもしれない。

少なくともこれで彼が
彼女とやっていく、とか、結婚する、とか言い出したら
「ちぇ」では済ませられないんだな…。


そう思ったのが、金曜日の朝のこと。


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