デイドリーム ビリーバー
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仕事の話をしている時だったか、彼が言った。
「宙ちゃんって、ダイと仲いいよな」 「え?そりゃー…」
同業同士だし、その上同期だし、 月一回飲み会するぐらいだからそれなりに仲いいよ。 ってか、彼もその飲み会にはちょくちょく来るし ダイ君と仲悪いわけじゃないでしょ。
なんなんだ? そういえば、時々こういう違和感を感じる発言がある。
しばらく考えて、もしかしてって思った。 「もしかして、ヤキモチ妬いてるの?」 彼は、ちょっと絶句していた。
「なんで今ごろ“もしかして”やねん!ふつう妬くやろ、好きやったら。 ちゅーか、宙ちゃんはなんでやかへんねん! 前の彼女のこと話しても、職場の女の人のこと話しても 道行くきれいな人見とっても、一緒に“きれいな人”とか言ってるし」
えーと…。
“ふつう妬くやろ、好きやったら”とか言われたら、 ドキドキしちゃって 返答する余裕なんてなくなっちゃうんですけど…。
「俺のこと、そんなに好きじゃないんかなって思うやん」
いや、それは違うので、なにか答えなくちゃって思って
「実は私、ヤキモチってあんまり妬いたことないんだよね。 妬いて欲しいもの?」
って言ったら、彼は、肩をがっくり落としていた。
「まーなー。俺は好きな人には、すごい妬くから 妬いてくれたほうが、俺のこと好きなんやなって思えるし…。 あーあ、こういうこと言いたくなかったのに、クール計画だいなしや」
クール計画ってナニ?
「こうなったら言うけどな、俺は正真正銘のヤキモチ妬きで 寂しがりで、しつこいからな! だいたい宙ちゃんは、隙がありすぎやねん。 なんで、デートの待ち合わせ中に、ナンパされてんねん」 「だって、それはN君が遅れてきたから」 「わかった、じゃあ俺はもう一生遅刻せーへん!」
一生、とか言うかな。 一生、待ち合わせしてくれちゃったりするんだ。 とか思うと、また、きゅーって胸が痛くなるんだけど 彼は、別のことで、結構本気で怒っているみたい。
「それに、仲いい男が多すぎや!」 「N君だって、そういう友達だったでしょ」 「そりゃそうやけど…。知り合った頃から思っててん。 宙ちゃん好きになったら、ヤキモチ妬きすぎて大変やろなって。 宙ちゃん誰とでも仲いいし。だいたいあの業界の人とだけは つきあわへんって思ってたのに」 「なんで」 「出会い多すぎやし、変な客だってたまにはおるやろ? 危ないやんか」 「適当にうまくかわす方法は、身に付けてるつもりなんだけど」 「じゃあ、一回もおしり触られたことないって言うんか!」
あーあ覚えてたか。そういや、友達時代に言っちゃったことあるわ。 おしり触られたって。 多分1回しか言ってないと思うけど、実は2回あるのよね。 てか、胸さわられたこともあるしねえ。おじいちゃん客にだけど。 デュエットなんてしょっちゅうだし。 この調子じゃ、これは言えないなー。
旅の恥はかき捨てって、飲みまくる男性客には 添乗員がコンパニオンかなんかに見えることもあるらしく。 まあそれでも、角が立たない程度に、なんとかうまくやってきたけど。
「かわせるかどうかとか、そんなんじゃなくて、心配やろ! てゆうか、そういう対象に見られるだけでいややねん」 「そんな風に見られることなんて、ないよー。所詮仕事だし」 「それに忙しいし。仕事行ったら、帰ってこーへんし」 「電話とかメールはできるんだし、 東京にいても会わない日なら一緒じゃないの?」
「ちがう!だってなんか、遠いなーって思うやんか。 宙ちゃんは寂しくないん?」
寂しいって答えたほうがいいのかなー、なんて思いつつ ウソはつけません。
「電話で声きけるだけで、私は嬉しいけど…」 って言ったら、彼はまたガクッと肩を落としていた。 「やっぱり宙ちゃんは、 俺が好きなほど、俺のこと好きじゃないんや…」 「え、そんなことないよ」 「だって、俺が“好き?”ってきいたら“うん”って言うけど 自分から俺のこと好きって言ってくれへんし」
いや、私は、彼が言いすぎだと思ってるんだけど…。
「キスも俺からするばっかりで、宙ちゃんからされたことないし」
こっちからしたいなって思う暇もないぐらい 彼がしてくるからだと思うんだけど…。
なんだかおかしくって、笑いたかったけど 彼が、実はかなり深刻に落ち込んでいるみたいなので
そこはまちの中の小さな広場で 寒いにもかかわらず、何人かの人がいて 私は基本的に、人目のあるところで、こういうことするのは 苦手なのだけれど
少し姿勢をかえて キスをして やさしく抱きしめて 大好きって、小さな声で言ったら
彼は、ほんとにほんとに心から嬉しそうに笑って ぎゅうって私を抱きしめて
「俺、こんなことでここまで感動できるなんて ちょっとおかしいよな」
って言った。
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