デイドリーム ビリーバー
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2001年12月26日(水) 私は弱虫の泣き虫のサイテー虫です。

やらかしてしまいました。
強くなりたいって、思っていたのに。


イブの待ち合わせを電話で決めて
眠りについていた23日の夜中(正確に言うと24日)
携帯メールを着信した。

半分寝ぼけながら見ると、彼から。

「電話で少し話そうか」

わけがわからない。
さっきまでラブラブな電話していたわけだし。

さみしくなった…とか?

「?」と打つけど、反応なし。

しばらく待っているうちに、だんだん不安になってきた。


もしかして、彼女がクリスマスメールを送ってきて
返事を返しているうちに、話をしようってことになって
つまり彼はまた、メールのあて先を間違って送ったわけで、
今ごろ二人は電話中で、私のメールは届いてなくて。

電話をかけたら、確かめられる。

彼が寝ていたら、私の勘違い。
でも、話中だったら…?


ベッドの上で携帯を見つめたまま、妄想がとまらなくて
泣いて泣いて、気がついたら夜が明けていた。

今になって思えば、ほんとにバカとしか言いようがない。

冷静に考えれば、
電話の直前に彼が私に送ったメールが
遅れてついたんだって、わかりそうなものだけど、

何しろ最近の私は、情けないぐらい怖がりなので、悲しくて
おかしいんじゃないかっていうぐらい、大泣き。


会ってすぐ、彼の態度や笑顔だけで
簡単にその疑いは晴れたわけだけど、
自分に対する情けなさで、どうしても態度がぎこちなくなってしまう。

彼も、私の様子がおかしいと思っているらしく
「どうしたん?なんかあった?」
って、心配そうに、やさしく聞いてくれるけど
「なんでもない」
の一点張りの、かわいくない私には、お手上げ状態。

でも、すごく気を遣ってくれているのがわかる。

どこからそんなパワーがでてくるんだ。
私だったら、こんなわけわかんない反応しかしない
かわいくないやつ、いつまでもかまってやれない。
車の窓からポイだ。

なのに彼は、車運転しながら、よしよしって頭なでる。
「心配事か?なんでも言っていいんやで。
 まだ何か不安なんか?」
この間、私が急に泣いたことを、彼は結構気にしている。

だいたい私は、そう簡単に人前で泣いたりしないし
こんなふうに人前で不機嫌になることもないし
どんな時でも冷静で、
いつもにこにこ人当たりがいいはずなのよ。

と、私としては、そういう意味での混乱もあるわけで
もうキャパシティオーバー。私こそ、お手上げ。

「俺のこときらいになった?」
って急に聞くので
ぶるぶる頭ふったら、彼はまた黙って頭なでていた。


まあ、でも、そうこうしているうちにも
時間がたつと私のほうも落ち着いてきて、
きれいな景色見て、おいしいもの(ってモスだけど…)食べて
車の中で歌とかうたっていたら
知らないうちに楽しくなってきて、ラブモード復活です。

めでたし。


…と、いきたいところだけど
本当にやらかしたのは、これからが本番。


晩ご飯を食べたあと、彼の家にあがることになった。
一緒に住んでる親戚はお出かけ中で、その隙にちょっとだけ。
…高校生かっつーの。

初めて見る彼の部屋。

ほんとだ、私と同じマニアック本、持ってる。
いつも寝ているベット。
カーテンの色。
いつものコートがかけてある。
スウェット発見。

じろじろ見てたら、後ろから抱きしめられて
照れくさそうな彼と、キスした。


お茶を入れてもらって飲みながら
思わず言ってしまった。

「ねえ…写真見せて」
「…何の?」
「…いやだったらいい」

彼はじっと私を見つめて、
押入れから、1枚ひっこぬいた。

彼女と二人でうつっている、少しよそ行きの写真だった。

化粧っけの少ない、落ち着いた感じのきれいな人。
でも二人とも無表情で、正直、どういう人なのかわからなかった。

しばらくして私は顔をあげた。

「これだけ…?」

「…全部見たいん?」

せっかく家に入れてもらったんだから
せっかくクリスマスなんだから
もっとラブラブに楽しめばいいのに。

「見たい。…でもいやだったらいい」

彼は、小さいアルバム1冊と、箱をひとつ出してきて
ベットに座った私に渡した。

「ごめんな。整理してないねん」

アルバムの方は、二人が旅行したときのものだった。
楽しそうに笑う彼のドアップがうつっていた。
顔を二人で撮りあいっこしていた。
このアルバムだけきちんと整理されていて、
多分彼女がまとめたんだろうってわかる。

箱の方は、その他の写真が乱雑に入っていた。
高校を卒業してからの約十年分。
そのうちのほとんどは彼女と過ごした時間でもある。
彼女との写真は意外に少ない。

男同士で遊んでいる一枚に目がとまった。

部屋の隅に突っ立って、私の様子を伺っていた彼が
その一枚を凝視する私に、不安そうに近づいた。

「どうした?」

「…指輪してる」

「えっ」


大学生らしい彼の、右手の薬指に銀色の指輪があった。


彼が写真をとりあげて、私を抱きしめて
「大丈夫やからな」
って何度もつぶやく。
「今俺が好きなんは、宙ちゃんやからな」

それ以外にもいっぱい言う。
きいているだけで苦しくなるような、本当の思いが伝わる声で。

「ごめんね」
って私はあやまった。
自分の身勝手を優先させて、こんなふうになぐさめられている。
彼も、そしてもちろん彼女も、私に見られたくなかったかもしれないのに。
彼は、彼女のこと思い出すだけで、まだ辛いかもしれないのに。

「彼女は…」
って言いかけたら
「前の彼女」
って訂正された。

「宙ちゃん、いつも“彼女”って言うけど
 今の彼女は宙ちゃんなんやで」


この間買った指輪を、つけるのは延期することになった。

「もやもやしてるんやろ」って、彼が苦笑した。

「このもやもやが、もう少し減ってからにしよう。
 俺とペアリングしたいって、宙ちゃんが心から思えるようになったら
 …って、まあどうせすぐやけどな」

最後は、いつもどおり、いたずらっぽく笑う。

「すぐね」
「すぐすぐ。もー宙ちゃん、すぐ俺にメロメロになるって」
「めろめろ…」

二人で笑いながら、またぎゅうって抱きしめあった。


別れ際、彼がクリスマスカードだけくれた。
帰ってから開いたら、
そこにはすごくあたたかい言葉が書かれてあった。

もったいなくてここには書けないけど。

やっぱり指輪すればよかったって思いながら
するはずだった指を見ていたら
「今家についた」ってメールがきて、思わず電話してしまった。

「大好き」
って言ったら、電話のむこうから彼の嬉しそうな声がきこえて
何度も大好きって言ううちにとまらなくなって

泣きながら
大好き大好きって

30回ぐらい目になったら
さすがの彼も「もーわかった」ってあきれていた。
でも最後まで、うんうんって聞いてくれた。


私はいつももらうばっかりで
いったい彼に何をしてあげているんだろう。

最近の私は、ほんとに弱虫で泣き虫でサイテー。

そう言ったら、彼は
「不謹慎かもしれへんけど、俺は嬉しいで」
って言った。

「宙ちゃん、変わったよな。
 前はもっと、クールで大人って感じやったのに」
「がっかり?」
「だから、嬉しいねんてば」

次会うとき、今度こそ指輪しようって約束した。

もうこれからは、情けないところも全部で
私の全部で、
ちゃんと向き合って
ちゃんと大好きって言おう。


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