【シュークリーム作成日誌】

2003年06月04日(水) SSS#49「瀬戸口×速水  シリアス?」


【愛の言霊】






ささやく、愛の言葉。
優しく、僕を騙す。
誘導尋問のような、欺瞞。



最初はただのなぐさめだったと思う。
真夜中に、まっくらな教室で偶然でくわした彼。
あまりにも憔悴して、表面を取り繕う余裕すらなく疲れきった彼を見て、思わず余計な世話を焼いてしまったのは、他ならぬ当の彼からの刷り込みだっただろう。

「瀬戸口さん、どうしたの?こんなとこで。もう午前4時だよ」
「・・・なんでもない」

どう見ても、なんでもなくは無い顔だった。

「瀬戸口さん・・・あの、僕の家に来る?」

朝になれば強制的に起こされる、詰め所の狭いベッドよりは寝心地が良かろうと提案したのだが、瀬戸口は視線すら返さなかった。

「俺にかまうな」
「そんな・・・ほっとけないよ」

瀬戸口は、ひんやりと笑った。

「優しいあっちゃんはどうでもいい奴でもクラスメイトをほっておけない・・か・・・?」

当人は皮肉を言っているつもりだったのだろうけれど、それがあまりにも力なかったから、速水は彼が可哀想になってしまった。
だからだろう。
思わずそんな言葉が口をついて出てしまったのは。

「そんなんじゃないよ。誰でもってわけじゃなくて・・・瀬戸口さんだから・・・」

瀬戸口が、はじめて顔を上げた。
暗闇に光る、猫の瞳。

「俺、だから?」
「だから・・・」

戸惑う。否、惑わされる。
決定的な一言を、言ってしまう。

「瀬戸口さんが、好きだから。
 大事だから、放って置けないんだ」

速水が驚いたのは、瀬戸口に突然抱きすくめられたからだった。
息が、苦しい。
耳元に、囁く声が熱かった。

「速水、それ、本当?
 嘘じゃない?」

冗談だよと流して終わらせるには、あまりにも真摯な声だった。
何かを必死に求める仕草で、瀬戸口は速水を抱きしめる。
どうかどうか、愛して欲しいとすがり付いてくる手を、払いのけることは出来なかった。

「嘘じゃない。・・・好きだよ」

そう、言った。
嘘じゃない。言ったらそれが、胸にすとんと入り込んだ。
瀬戸口が好き、というその気持ちが。
言葉にしたら、形にならないものが形を得る。
そうしてこの恋は始まった。




***




「あーつしv」

男は背中にくっついてくる。いつもそばにいるのに、彼は自分が愛されている事を、ことあるごとに確かめたがる。
振り払われない事に安堵する。
何がそんなに彼を不安にさせるのか速水は知らなかったけれど、差し伸べられる手を振り払ってはいけないことだけは知っていた。
振り返って、笑う。
赤茶色の髪を撫でる。銅線のように、コシの強いすべらやかな髪。頬にはくちづけを。
瀬戸口は嬉しそう。

「あっちゃん。俺の事好き?」

愛の伝道師にあるまじき質問だけど、速水は面倒がらずにいつも律儀に答える。

「うん。好き」
「どのぐらい好き?」
「んー…」

考え込む速水。それは真剣に考えている証拠なので、瀬戸口は急かしたりしない。

「僕の事、全部、どんなものでもあげてもいいって思えるぐらい、好き」
「本当に?」
「本当に。何が欲しい?何でも言って」
「あっちゃんのことなら、ぜーんぶ。って言いたいところだが、
 とりあえず、最初に…」

瀬戸口は、ちゅっと音を立てて速水の唇を奪った。
速水は、困ったような恥ずかしそうな目をして頬を染める。
ちなみにここは校舎の屋上だ。いつ誰が来てもおかしくない。
でもこの男は、いつ何処ででも誰が見ていても、速水に懐くことに余念が無い。
速水も検証することに余念が無い。主にこの目の前の男を好きになった、切っ掛けについて。

「…僕、騙されたのかなあ…」
「何?」

良く聞こえなかった、と顔を近づけてくる自称美少年の整った顔に、速水は疑念を欠片も感じさせない綺麗な笑顔で首を振る。

「瀬戸口さんを好きになって、良かったって言ったの」

愛しい人からの手放しの愛の言葉に男は珍しく頬を上気させ、しきりに照れた。
その様子に、速水も幸せな気持ちになる。
切っ掛けがなんであれ、自分が今この人を好きな気持ちに嘘は無い。

「ねえ、瀬戸口さん。僕が好き?」
「勿論!…誰よりも愛してるよ」

瀬戸口は今日も愛の言霊を発し、速水を惑わせる。
手繰り寄せる紅い糸が、途切れてしまわぬよう。
優しいこの子が、自分を見捨てることの無いように。
愛して欲しいと訴え続ける。







Fin
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瀬戸口、詐欺師のようですね(笑)
SS書かない決意。
早くもくじける。



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