散歩主義

2002年10月10日(木) 「躯」と「翳」。

吉行淳之介さんの文学は詩作から始まっています。みずからも語っておられました。静岡高校から東大に入学する時、自作の詩50篇を手にして上京しているのです。その後「自ら駄作と悟り」ボツにしたと告白されていますが、詩作に情熱を賭けておられたからこそ、そういう出来事をたびたび書かれたのだと思います。

また、だからこそだと思うのですが、詩の一部は散逸せずに残っていて、亡くなられてから編まれた「全集」に収録されていたと思います。この本もぼんやりしていたら絶版。まさかそんなに早くなるとは思わなかったので、詩が収められている部分だけでも、と書店の在庫にあたっています。

ところで氏に関するエピソードのいくつか。
原稿に使われた漢字のこだわり。氏は「知ってる漢字を使って書いてるだけ」とおっしゃつてますが、ひとつは「躯」。この字の「区」という字が旧字体のもの。「体」でも「身体」でもなくこの字。もうひとつが「翳」という字。これも「影」や「陰」ではなく、この字です。ふたつとも吉行作品の重要な位置を占めますね。「躯」と「翳」。
「翳」のほうは理由を読んだことがあって、「羽」という字が入っているからだ、と。

もうひとつ。
ポートレートなどから「猫」のイメージの強い吉行さんですが、犬を飼っておられたんですね。それもセントバーナード!!それも二代にわたって。

今、再読していてやはりこの方は「詩人」だなぁと思うことしきり。酒もパチンコもやらないし、ほとんど朝型のぼくとは生活そのものが全然違うけれど、根っこのほうになにかとても近しいものを感じています。





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