2009年09月15日(火) |
「自分は弱い」と語る男 |
朝、目が覚めたとき雨の音がした。久しぶりのこと。 午前中、外での用事があったついでにコンビニへ。某コンビニのドーナツが好きで時々買うんですが、そこでついでにコミックスをチェック。
何故かいつも本屋ではなくコンビニで買い、ずっと集めている「バガボンド」の31巻がでていて即座に購入。 コミックスで求めてるのは数年前からずっと浦沢直樹と井上雄彦の二人だけになってしまいました。もう少し他の作者のものも読みたいんですが…不勉強です。
この二人の中でもどちらかというと井上さんのほうを、その井上作品の中でも「バガボンド」を繰り返し読んでいます。
「バガボンド」には武蔵ともに故郷を出奔した、幼い頃からの友人、本位田又八が登場します。 31巻は又八が病に倒れた母を背負って国へ帰ろうとし、その途上で母が亡くなる物語が、再び柳生へと向かう武蔵の物語とともに描かれています。
又八は老いた母を背負い、自分の来し方を振り返り、出世欲と色と金の欲に溺れ、才能と努力のなさを嘘で塗り固めて生きてきた自分をとうとう悟るのでした。本当はとても心の優しい男なんですが…。
そのあたりは読んでもらった方が数百倍わかるのだけれど、武蔵という強烈な存在に「あてられた」故の、弱さを隠し通すための嘘地獄を生きてきたことを母に告白したのでした。そして、いまわの際の母とともに死のうとして泣くのです。 「俺は弱い…」と、とうとう呟いて。
結局、又八は崖から飛び降りることができず、さらに「弱い! 弱い!」と泣きながら転げ回りながら叫ぶのです。(これも絵を観てもらった方がその迫力が凄いんですが…)
それに答えて母が「よう言うた」と。 「弱いものは 自分を弱いとは言わん。 おぬしはもう弱いものじゃない。 強くあろうとするも者。もう一歩目を踏み出したよ」
曰く 「この世に強い人などおらん 強くあろうとする人 おるのはそれだけじゃ」と。
母は亡くなり、又八は墓を作り故郷へ帰っていきます。「自分は弱い」と知った男として。
この本を読み終えて、昨晩「ぼくは弱い」と語ったもう一人の男を思い出しました。 それは、大リーグで史上初の9年連続200本安打を記録したイチローです。
昨晩、早速放映されたNHK「スポーツ大陸」。これまでのフィルムに追加し、取材された今年のインタヴューで「ぼくはプレッシャーに弱いです」とまっすぐに射すくめるような目をして「はっきり語気を強めて」語っていたのでした。
番組では感覚を大切にし、研ぎ澄まし、その最高の自分を維持するために、ありとあらゆる努力を傾注するイチローの姿が紹介されていました。 そこには自分が崩れてしまう事への「恐怖」さえ感じるほどです。
「自分が弱い」とイチローはきっぱりと語りました。 だから…。 だから、やはり常に「強くあろうとする者」なのです。
人はそれぞれ才能のレベルは違うし、生き方も違う。ぼくなぞ又八の気持ちが刺さるようにわかるけれど、「強くあろうとする者」として生きることしか自分を前進はさせない、と感じたのでした。
それは武蔵がまた闘いの果てに、その彼方に「何か」を求めようとしている姿勢とも重なるのです。
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