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| 2025年10月04日(土) ■ |
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| 『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』 |
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『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』@kino cinéma 新宿 シアター2
ザ・ザ・コルダやっと観に行けた〜 父と娘のロードムービー、てかあんなラストー! ベニーが! 有難うアンダーソン監督!
[image or embed] — kai (@flower-lens.bsky.social) Oct 5, 2025 at 0:49
まあ移動の殆どは飛行機なのだが。でも、父と娘が互いを家族と認める迄の“試用期間”を“移動”とともに見せているとすれば、やっぱりこれはロードムービー。
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』以来、ウェス・アンダーソン×ベニシオ・デル・トロのタッグです。てか主役〜! 当て書き(なんですって)〜! 『フレンチ〜』でのベニーは殆ど話さない役で、話しても唸り声とかで、衣装も囚人服で終始していたけど今回は! 衣裳替えがたっくさん! しかも全てがスタイリッシュ! 貴重だわ…殺し屋とか工作員とか麻薬王とか麻薬中毒者とかNGO職員とか、いいおべべ着てる作品あんまないから(特殊工作員はコスチューム萌えがあるかもしれんが)……ちなみに天界のシーンは『フレンチ〜』使いまわしなのかと思った(笑)。あのヒゲといい。
あっでもハムレットやったな、『ウルフマン』の劇中劇で(急に思い出した)。貴重なコスチュームプレイ…とはいえこれも結局狼男になるからな……。あとは『スナッチ』が強盗時と普段時両方とも素敵なルックだったけど、今回程ヴァラエティに富んだルックのベニーが観られたのは初めてのことだと思います。
ちなみにベニー曰く「『どのように役作りをしますか?』と聞かれた時、『ウェスの脚本とほんの少しの自分らしさ、そしてミレーナ(・カノネロ)の衣装』と答えました。ミレーナとウェスは、帽子から靴ひも、そしてその間にあるすべてにおいて息ピッタリで、ベストな衣装を作り出してくれるんです」(パンフレットより)。という訳でミレーナにも有難う! こういうこというベニーも素敵!
さて今作、1950年代のお話。事業のためならどんな汚いことでもやってきた大富豪。多くの恨みを買っていて、敵はものすご〜く多く、これ迄に6度暗殺未遂に遭っている。てか6度暗殺されかけて死んでないのがすごい。飛行機落ちても死なない。撃たれても死なない。不死身か。でも本人は自分のことを不死身じゃないと知っているので(そこんとこ身の程を知っているというか謙虚よね)後継者を選び、最後の大仕事“フェニキア計画”に着手する。
後継者に選ばれたのは修道女見習いの娘。この男は自分の母親を殺したのだろうか? それを知るため、そして善行となるかもしれないフェニキア計画の成功を祈るため、これ迄全くといっていい程交流のなかった父との旅に同行する。
アンダーソン演出ならではの、最低限の表情で、カメラ目線で、マシーンのように早口で語る演者たち。読めない心のうち。それでも少しずつ、父親が娘のことをよく思っていること、一般的な意味でそれを伝える術を持たないこと、娘もそんな父親のことをもっと知りたいと思っていることが見えてくる。とても残酷で、とても美しい父子のやりとり。何度も死にかける父親は何度も天界の入り口に立つ。しかしその都度入場を阻まれる。それは生前(いやまだ生きてるけどな)犯した罪の多さに「おま、あんだけのことやっといて天界に入れると思ってんのか」という拒絶ではなく、「こっちに来る前にまだやることがあるだろ?」と促されているかのよう。何しろ神は“赦す”ものだからだ。
そして娘も“赦す”側ではなく“赦される”側。修道女になりたい希望を何度伝えても、教会は許可を出さない。成程確かに彼女は「貞潔、清貧、従順」のどれも遂行していないように見える。父から贈られた“世俗的な”ロザリオを身につける。葡萄酒以外はとことわりつつビール3杯呑んじゃう(シーンが進むと空のグラスが増えてるのが最高)。父から贈られたこれまた世俗的なコーンパイプで喫煙する。それも全て祈れば“赦される”。メイクも世俗的=魅力的でしたね、華やかなフェイスカラー、真っ赤なルージュ。これがまたかわいくてなあ。多分彼女も天界の入り口で差し戻しだな(笑)。演じるミア・スレアプレトンがまためちゃめちゃキュート。仏頂面であればある程かわいい。実は予告編観たとき彼女のことをスカーレット・ヨハンソンだと思い込んでいた。仏頂面が絵になる女性といえばスカジョだと思っている節があるんですが、ミアにはその系譜に連なる大物っぷりを感じました。
それにしてもその“世俗的な”あれこれを手掛けたのが超一流のブランドばかりというのもなかなかな皮肉。邸宅に飾られている美術品も全て実物。そのなかでも特に気になったのは、実は輸血道具なのだった。あれはどうなん、本物なん? 1950年代当時はあんな手動でシュカシュカやってたん? てかあんなスピードでシュカシュカやってたら具合悪くならん? あとオモチャみたいな嘘発見器も可愛かったな。ホントと嘘が入り乱れるアンダーソンワールド。
獰猛、ぶきっちょ、エレガントな父親。そんな彼の、「料理がうまく、皿洗いもうまい」という伏線が回収されるエピローグ。ザ・ザ・コルダが失ったものと得たものが描かれる、夢のようなラストシーン。父子は一から出直しだ、しかし父の罪が消えた訳ではない。彼はまた殺されかけるのだろうか、或いは殺されてしまうのだろうか? そんな不安を抱えつつ、それでも厨房でトランプに興じる父と娘のぶきっちょな交流に笑顔になってしまう。父子の交流を捉え乍ら、カメラは世界から離れていく。エンドロールが流れる暗闇に鳴り響くのはストラヴィンスキーの「火の鳥」。なんて粋な。何度でも甦る不死鳥は、こうして父子を祝福する。
あ、当て書き? 当て書きなの? プライヴェートをほぼ明かさないベニーのこれが? いやーそういう意味でもめちゃめちゃ楽しみました。ベニーがずっと手負いってところもいいわ〜。アンダーソン監督、ファニーでチャーミングなベニーを有難う! 『フレンチ〜』ではベニーとエイドリアン・ブロディの共演が観られて感無量だったのですが、今回はベニーとベネディクト・カンバーバッチ(あのヘアメイク!)の取っ組み合いが観られて感無量でした。おじさん同士の取っ組み合い、最高だね! アンダーソン監督有難う(何度でもいう)!
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